キオクシア株はなぜ年初から4倍になったのか
まさかキオクシアがここまで上がるとは思っていませんでした。
AIブームといえば、まず思い浮かぶのはNVIDIAです。あるいは、ChatGPTを作るOpenAI、Google、Microsoft、Metaみたいな巨大IT企業です。日本株で言えば、半導体製造装置や材料メーカーが注目されるのも自然です。
ところが2026年春、日本株市場でかなり大きく買われた銘柄の一つがキオクシアでした。
2025年12月30日のキオクシア株の終値は10,435円でした。それが2026年5月8日には44,490円まで上がっています。約4.26倍です。2026年1月6日の年初来安値10,945円から、5月8日の高値45,550円で見ると約4.16倍です。
時価総額も一気に大きくなっています。5月8日の終値ベースでは約24兆円規模で、日本の上場企業で6位級です。1日の売買代金も大きく、5月8日の売買代金は約1.83兆円でした。これは同日の東証プライム市場全体の売買代金の約17%です。
これ、普通にかなりすごいです。
では、なぜ東芝から分社化・売却されたNANDフラッシュメモリの会社が、AIブームの中でここまで買われているのでしょうか。
先に結論を言うと、市場がキオクシアをAI関連銘柄として見始めているからです。
ただし、キオクシアはNVIDIAのようにGPUを作っている会社ではありません。キオクシアが作っているのは、主にNANDフラッシュメモリです。NANDフラッシュはSSDなどに使われる、データ保存用の半導体メモリです。
じゃあ、なぜデータ保存用のメモリがAI関連として買われているのか。ここが今回の話です。
キオクシアは元東芝メモリ
まず、キオクシアはもともと東芝のメモリ事業です。以前の社名は東芝メモリでした。東芝はNANDフラッシュメモリを発明した会社でもあり、メモリ事業は東芝にとってかなり重要な事業でした。
ただ、2010年代後半の東芝は、不正会計問題などで巨額損失を抱え、経営危機に陥りました。
その中で、東芝はメモリ事業を切り出して売却する必要に迫られました。2017年に東芝メモリとして分社化し、2018年にベインキャピタル主導の企業連合への売却が完了します。その後、2019年にキオクシアへ社名変更し、2024年12月に東京証券取引所プライム市場に上場しました。
つまりキオクシアは、突然出てきた会社ではありません。
東芝の重要事業だったメモリ事業が、東芝本体の経営危機をきっかけに分社化・売却され、名前を変えて上場した会社です。
なお、東芝が完全に無関係になったわけではありません。キオクシア公式IRによると、2025年9月30日時点で東芝はキオクシア株の27.25%を保有しており、現在も筆頭株主です。
キオクシアは何を作っている会社なのか
キオクシアの主力は、NANDフラッシュメモリです。分かりやすく言うと、SSDなどに使われる半導体メモリです。
ここで大事なのは、キオクシアが「AIの学習や推論で使われる高速メモリ」を主力にしている会社ではない、という点です。つまり、もともとはAI関連銘柄として分かりやすい会社ではなかったんです。
AIの学習や推論では、モデルの重みや中間データを高速に読み書きする必要があります。この用途では高速メモリが必要です。その代表がDRAM系のメモリです。NVIDIAのGPUに搭載されるメモリもDRAMです。
一方で、NANDフラッシュはDRAMに比べると遅いメモリです。だから、AIの学習や推論で計算中のデータを直接扱う用途には基本的に向きません。その代わり、大容量化しやすく、電源を切ってもデータが残ります。
ここでNANDフラッシュとSSDの関係も整理しておきます。
NANDフラッシュは、データを記録する半導体チップです。SSDは、そのNANDフラッシュを複数搭載し、コントローラやファームウェア、インターフェースなどと組み合わせた記憶装置です。
つまり、NANDフラッシュは部品で、SSDはその部品を使った完成品です。キオクシアはNANDフラッシュチップ自体も作り、そのNANDを使ったSSD製品も展開しています。
ここまで見ると、キオクシアはAIブームのど真ん中にいる会社には見えません。GPUでもないし、DRAMでもない。NANDフラッシュの会社です。
それなのに株価が大きく上がっている。ここが面白いところです。
株価上昇の直接的な理由
キオクシア株が上がっている直接的な理由は、AIの推論部分で、NANDフラッシュやSSDの需要が増えると市場が見ているからです。
ここが一番重要です。
AIブームというと、GPUやDRAMが注目されます。これは当然です。AIの学習や推論には大量の計算能力と高速メモリが必要だからです。
ただ、最近はそれだけでは足りないと見られてきました。多少遅くても、大容量のNANDフラッシュを使う場面が増えるのではないか、という見方です。
AIの学習では、学習データ、モデルの重み、チェックポイント、ログなど大量のデータを扱います。推論でも、最近は単にモデルをメモリに載せて入力を処理するだけではなくなっています。
DRAMは高速ですが、容量には限界があります。巨大なデータを全部DRAMに置くとコストも大きくなります。そこで、大容量のNANDフラッシュやSSDを使う方向が出てきています。
用途として分かりやすいのがRAGです。
RAGでは、LLMが回答する前に外部の文書、社内データ、ログ、商品データ、コード、PDFなどを検索して取り出します。モデル本体がGPUメモリに載っていても、参照するデータベースや文書群は巨大です。すべてをDRAMに置くのは現実的ではありません。
長いコンテキストを扱う推論では、KV cacheも大きくなります。
KV cacheとは、LLMが文章を生成するときに、過去のトークンについて計算済みの中間データを保存しておく仕組みです。これを保存しておくことで、次のトークンを生成するたびに過去の文脈を最初から計算し直さなくて済みます。
ただし、コンテキストが長くなり、同時に処理するユーザー数が増えると、KV cacheの量は大きくなります。商用サービスでは、会話履歴や中間データをどこに置くかが問題になります。
このKV cacheも、全部DRAMに置くのは現実的ではありません。
さらにMoEモデルもあります。MoEは、モデル全体の中に複数のexpertを持ち、入力ごとに必要なexpertだけを使う方式です。
この仕組みによって、モデル全体では非常に大きなパラメーター数でも、実際に使う計算量は抑えられます。ただし、必要なexpertを読み出すためにはストレージアクセスが問題になります。どのexpertをDRAMに置き、どのexpertをSSD側に置き、どう事前読み込みやキャッシュを行うかが重要になります。
つまり最近のAI推論では、モデル本体だけではなく、外部データ、検索インデックス、文書本体、KV cache、ログ、マルチモーダルデータなどを含めて、システム全体で扱うデータ量が増えています。
ここで重要になるのが、DRAMとSSDの使い分けです。
DRAMは高速ですが、巨大なデータをすべて置くにはコストが大きい。SSDはDRAMより遅いですが、大容量を比較的低いコストで用意できます。そのため、AI処理で使うデータを保存し、高速に読み出すためのSSD需要が増えるという見方が出ています。
キオクシア自身も、AI推論システムで高性能・大容量SSDの需要が増えると説明しています。第8世代BiCS FLASH、CM9、LC9、Super High IOPS SSDなど、AI向けSSDの文脈で説明される製品もあります。
ここで注意したいのは、SSDがDRAMの代わりになるという話ではないことです。DRAMとSSDは役割が違います。SSDはAIの学習や推論の計算処理を直接担当する部品ではありません。AI推論システム全体の中で、巨大なデータを保存し、必要なデータを読み出すための記憶階層として重要になる、という話です。
AI需要はデータセンター以外にも広がる
AI需要はデータセンターだけの話ではありません。
ここは、かなり身近な話です。
あなたのパソコンに入っているSSDも、スマートフォンのストレージも、基本的にはNANDフラッシュを使っています。AIデータセンターが大量のSSDを必要とすると、同じNANDフラッシュを使う個人向けSSDやメモリカードにも影響が出ます。
実際、2026年にはSSDやメモリカード価格がかなり上がっています。
つまり、キオクシアの話は「遠いデータセンターの話」だけではありません。PCを自作する人なら、SSDの価格が上がっていることとして見えます。写真や動画を扱う人なら、SDカードや外付けSSDの値上がりとして見えます。スマートフォンでも、保存容量の大きいモデルが増えれば、その中に使われるNANDフラッシュ需要につながります。
AI需要は、データセンターの中だけで完結する話ではありません。データセンター、PC、スマートフォン、メモリカード、外付けSSDまで、NANDフラッシュを使う製品全体に影響していきます。
だからキオクシアの話は、単なる半導体株の話というより、これからPCやスマホのストレージ価格がどうなるのかという話にもつながります。
ということで、今日はここまで!
とりあげてほしいネタがあったら、コメントでお待ちしております。




けいすけさん!有難うございました🙏最近、日経などでやたら「キオクシア」の語を見るようになって、疑問に思っていたことです。お陰様で全体像が分かりました。株を買っちゃいましょうか?😅
【質問🙋♂️】素人質問だし、お尋ねする内容なのか疑問ですが、ダメ元で。お許しください🙇♂️先日、手持ちのオーディオに音楽データを突っ込む為に、KIOXIAのUSBメモリを買いました(昔の東芝ブランド繋がりで)。もっと大容量が欲しかったのですが、256GBが最大でした。これはもっと大きい容量は、SSDの守備範囲だからと理解しましたが、合ってますでしょうか?🤔マイクロSDカードなら、1TBとかあるのに?も疑問でした。